伝説的な天才時計師への
インタビュー
ジョージ・ダニエルズ博士は、60年以上現役で活躍している時計師です。プロの時計師として誰よりも尊敬を集めている彼は、オメガがエクスクルシブで採用しているコーアクシャル・エスケープメントを発明しました。この発明は、機械式時計産業に革命を起こしました。
ロンドンのClockmaker's Guild前会長及びHorological Institute前会長として、ジョージ・ダニエルズ博士は、Clockmaker's Company金賞、British Horological Institute金賞、City of London Guild金賞、Stockholm Watchmaker's GuildのKullberg賞などを受賞しています。また、時計製造への貢献により、イギリス女王エリザベス二世よりMBE(大英勲章第五位)を授与されました。
コーアクシャル・エスケープメントは、よく「先鋭的」や「革命的」と表現されますが、それに対して違和感はありませんか。
コーアクシャル・エスケープメントがそのように表現されることに違和感はありません。実際、コーアクシャル・エスケープメントは、革命的で先鋭的だからです。コーアクシャル・エスケープメントは、500年もの間時計師たちを悩ませてきた問題、つまり注油の問題を解決してくれます。
機械式時計において、コーアクシャル・エスケープメントのような先鋭的で革命的、そして劇的な大躍進が起こる可能性は他にもあると思いますか。
うぬぼれているように聞こえるかもしれませんが、正直なところ、あるとは思いません。機械式時計には長い歴史があり、何世紀もの間、時計師はそれらの改良に挑んできました。時計師は滑り摩擦による油の粘性問題と注油の必要性を解決することに何百年も取り組んできましたが、コーアクシャル・エスケープメントが導入されるまで解決できませんでした。
ムーブメントのパーツの一部に別の素材を使用することも可能かもしれませんが、コーアクシャル・エスケープメントのように、腕時計の基本的な性能にまで影響を与えることはできないでしょう。
コーアクシャル・エスケープメントは、将来、新たに作製される機械式時計に最も多く使用されるエスケープメントになると思いますか。
時計業界は、もともと非常に保守的で、新しいものはなかなか採用されません。しかし、他のエスケープメントを使用しているどのメーカーも、コーアクシャル・エスケープメントのほうが良いというごく単純な理由から、最終的にはコーアクシャル・エスケープメントの採用に踏み切ると思います。オメガは、コーアクシャル・エスケープメントの大規模な連続生産が可能であることを示しています。機械式時計産業が納得して受け入れるまでしばらく時間がかかると思いますが、それも時間の問題でしょう。
機械式腕時計が再び人気を集めていることは意外だと思いますか。
いいえ、まったく意外ではありません。私は、機械式腕時計は必ず生き残ると信じていると常々言ってきました。そして、1969年にロンドンで、コーアクシャル・エスケープメントを搭載した最初の腕時計を発表し、機械式腕時計を復活させました。
私は、機械式腕時計の生き残りは品質にかかっている、と長年マントラのように唱えてきました。その機械式腕時計とは、歴史に残るような優れた技術を搭載し、知的で美しく、しかも興味をそそる腕時計です。こういった特徴が、機械式腕時計の人気を昔から支えてきたものであり、将来の人気も約束してくれるはずです。
しかし、一世代ほど前には、クォーツによる計時によって機械式腕時計の魅力が薄れないように改良する必要がありました。
つまり、これが、機械式腕時計の人気を21世紀やその先にまで広げる大きな役割を果たす、コーアクシャル・エスケープメントの本当のメリットの一つです。
Financial Times の記事に、時計が完成するまで詳細図を作らなかったとありましたが、これは本当ですか。本当であれば、即興的に時計を製作されるのですか。
時計の完成まで詳細図を描かなかったというのは本当です。過去の名だたる時計師で図面から腕時計を作り上げた人は一人もいません!新しい時計の製作を開始するとき、私は自分の頭の中に全体のイメージを持っています。製作の途中に、改善になると思う点がでてくれば、小さな変更を加えていくことができます。
詳細図の問題点の一つは、鉛筆の線の幅がムーブメントの最も小さいパーツの幅より何倍も太い場合があるということです。
ただし、脱進機は例外です。脱進機の公差は、1ミリの数千分の1と非常に小さいため、脱進機の詳細拡大図を作ります。脱進機の最大の効率を実現するため、何十枚もの図面を描くときもあります。
数年前、博士が製作した37個の腕時計のうち36個を集めた展示会がサザビーによって開かれました。この作品の中で、特に気に入っている腕時計はありますか。それとも自分の「子供たち」はみんな同じようにかわいいですか。
特に気に入ってる腕時計が2つあります。1つは、その名に恥じないグランド コンプリケーション ウォッチです。これは、スリムなコーアクシャル・エスケープメントを搭載したゴールド製の1分間トゥールビヨンと、考えうるすべての複雑機構(ミニッツ・リピーター、瞬間に切り替わる永久カレンダー、均時差表示、ムーンフェイズ、温度計、そしてパワーリザーブの残り時間の表示)を備えた腕時計です。ちなみに私は今でもその腕時計を持っています。もう1つは、スペース トラベラーです。この腕時計には、 独立した二重車脱進機に加え、平均太陽日時表示、恒星時表示、ムーンフェイズ表示、均時差表示といった様々な複雑機構が搭載されています。
これらの腕時計はすべて実験的な目的のために特別に作ったもので、実際に製作を依頼されることはありませんでした。腕時計を作るときには、注文を取るために腕時計を作るというよりは、自分の目的を達成し、自分を満足させるために作ると最初から決めています。腕時計を販売するのは、その腕時計にふさわしいクライアントが現れたときです。
2009年、コーアクシャル・エスケープメントがオメガのキャリバーに初めて導入されてから10年がたち、オメガはその10周年を記念しました。この脱進機は、約40年間にわたり博士の人生の一部となっています。オメガがこの脱進機を理解し、導入したことは喜ばしいことですか。
オメガがコーアクシャル・エスケープメントを連続生産レベルで製造すると確約してくれたとき、大変嬉しく思いました。オメガは、時計産業において他のメーカーが批判し、懐疑の念を向けたこの革新的なテクノロジーを採用した勇気ある企業です。当時、オメガを賞賛する声はありませんでした。コーアクシャル・エスケープメントを発明したときにも全く賞賛の声はありませんでしたので、私はオメガに共感を覚えます。
コーアクシャル・エスケープメントは私がとても大切にしている子供ですから、オメガの技術者と、特に最初のうちは、数え切れないほど激しい議論を交わしました。私たちは、数年間かけて、構成部品の仕様について共同で研究し、生産に必要な特別なツールの形状を決定しました。コーアクシャル・エスケープメントは、従来のレバー脱進機よりも複雑であるため、生産までの準備段階では、技術者と綿密に連絡を取り合いました。他者との共同作業は私にとって新しい経験であり、オメガやその技術者との関わりを非常に楽しむことができました。
最終製品が動いているのを目にすると最高の満足感を感じます。発明者にとって、自分の夢がパーフェクトに実現されていることを見ることは、とても楽しいことです。その性能は、目を見張るものであり、従来のレバー脱進機では実現することができないほど長期間にわたって何日も使用できます。コーアクシャル・エスケープメントを採用するというオメガの勇気に賞賛が集まるでしょう。オメガが、この脱進機とともに大きな成功を収められることを願っております。