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究極の耐磁性

オメガ“Lifetime”Magnetic Editionからの抜粋


By Jon Wallis
3D artwork by  Tim Borgmann
Photographed by  Rasmus Dengsø


磁気の呪いをいかに解くか、それは 1世紀にわたるウォッチメイキングの課題だった。マスタークロノメーターの登場によって、オメガはタイムピースの精度を飛躍的に向上させ、業界に新風を吹き込んでる。

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最近の腕時計はたゆまぬ革新によって、品質や精度が向上し、信じられないほど長寿命になっている。時計メーカーの多大な努力はすぐさま評価されるが、ウォッチメイキングにおける最大の難問と言われていた課題が解決されたことはあまり話題にならない。これはおそらく、問題となる磁力そのものが目に見えないからだろう。

腕時計を着けていても、磁気がタイムピースにもたらす影響を気にする人は少なく、磁気から保護する仕組みを備えたモデルを提供している時計メーカーもこれまでほとんどなかった。磁気は人体に害を与えないと考えられているが、腕時計が磁気にさらされる機会は年々増加している。高度な電気機器や家電、なかでもスピーカーや磁気ラッチを備えたパーソナルツールが磁気を放射していることは一目瞭然だが、冷蔵庫に家族写真を留めているマグネットのような身の回りにある磁石も見落とさないよう気を付けなければならない。タイムピースは控えめな存在として日常生活にすっかり溶け込んでいるため、普段はあまり意識することもないが、時間を知るために欠かせない腕時計は精密機器である。必要なときにはいつでも時間が分かり、表示された時刻を信頼できるのは、正確かつ確実に時を刻む高度な機構のおかげだ。しかし、磁気の見えない力はほんの一瞬で計時性能を損ない、時計を狂わせる。「消磁」と呼ばれる処理を行えば、タイムピースを分解しなくても磁気を抜くことができるものの、この処理は専門家が行う必要があり、世界中のサービスセンターとって大きな負担になっている。

耐磁性の追求

磁気の影響を受けないタイムピースを追求してきたオメガは、このところマスタークロノメーターキャバー次々に発表している。もっも、磁気との闘いが始まったのはおよそ 200年前のこと。ポータブルなタイムピースが登場した頃は磁気の影響を受けることもまれだっが、第 2次産業革命が起きると、新たに生まれた電力源がそれまで正確だった懐中時計の精度を損なうことが明らかになった。新世代の機械や電灯に電力を供給するための強力な電流は、目に見えない磁場という副産物をもたらし、これが計時性能に支障をきたす原因であることはすぐに判明した。

時計のムーブメントの構成部品はできるだけ自由に動くように設計されている。無数の部品が狭いスペースにひしめきあっているため、密接に連動し、所定の精度で稼働しなければならない。しかし部品が磁気を帯びると、互いに引き寄せられて接触しそうになるため、ムーズに動作しない。高級時計メーカー各社は、ムーブメントに非鉄素材を使用すれば、磁気が輪列にもたらすいくつかの問題を軽減できることに早くから気付いていた。鉄の含有量が少ない金属や合金は耐磁性を備えているからだ。ムーブメントの地板や歯車を真ちゅう製にしたことで問題はやや緩和されたが、ヒゲゼンマイはどうしてもスティール製にする必要があった。ゼンマイの信頼性や耐久性を確保するにはスティールを使用するしかなかったのだ。19世紀半ばになると、時計メーカー各社はすでに磁気の影響を受けないゼンマイの素材を求めて研究を進めており、ガラスやパラジウム、金を使った実験に成功していた。しかし、こうした素材は耐久性が低いため長期使用には向かず、当時の技術では部品の大量生産も難しかった。必要な柔軟性と耐磁性を兼ね備えた新しい合金が発見されたのは、た。20世紀に入ってからのこと。これによって道が開かれ、 1915年には「磁気に強い」懐中時計が初めて市販された。この頃、新たなデザインの時計が顧客の間で話題になっていた。ケットに入れる懐中時計ではなく、手首に着ける腕時計が登場したのだ。「ハンズフリー」で時間を確認できる腕時計は、初期の自動車を運転したり飛行機を操縦したりするときの必需品だった。だが手首に着ければ、もともと壊れやすい時計を衝撃や水の侵入、磁気といった危険にますますさらすことになる。磁気の問題が深刻になると、オメガは「Anti-Magnetique(=磁)」という文字をエナメルダイアルに堂々と表示したクロノグラフ腕時計を 1925年に発売した。それから 10年の間にクロノグラフの懐中時計や腕時計がいくつも登場した。こうした初期のモデルは当時の競合製品より耐磁レベルは優れていたが、低い磁気にしか対応できない技術を利用していたため、耐磁性は限られていた。

戦後の躍進

第二次世界大戦が勃発すると、イギリス国防省(MOD)はパイロットやナビゲーターが着用する腕時計の規格を設けたが、その中には耐磁性を強化するという要件も含まれていた。当時の戦闘機では、エンジンの強力なマグネトー(磁石を用いた点火装置)が生み出す強い磁場がきちんと遮断されていなかったためである。戦時中、オメガはイギリス国防省の規格に対応したタイムピースを 11万点以上納品し、優れた品質と精度で高い評価を得た。これは当時、イギリスに出荷されたスイス製時計の半数に相当る。

戦争が終わると、戦時中に始まったさまざまな技術の進歩が、民間プロジェクトでさらに加速した。核融合を利用した国内の電力供給、老朽化した公共交通網の強化といったインフラ整備、ジェットエンジンやロケットの開発といったプロジェクトに携わる人々は、現場でかつてないほど強力な磁場が発生していること、そして自分の時計が狂っていることに気付いた。オメガはこうした状況を踏まえて、テン輪にベリリウムの含有量が多い特別な合金を使用し、ファデーケージで保護した一連の新しい耐磁ムーブメントの試作に乗り出した。ヒゲゼンマイは依然として鉄の含有量が多いスティールで製造されており、保護するには磁気がまったく届かないようにするしか方法がなかったのだ。このファデーケージを完成させるにあたっは、非鉄素材製カバーを片面はムーブメントの後ろに配し、もう片面はダイアルとして巧妙に装着し、磁気に弱いムーブメントをすっぽり覆った。こうすれば、磁場がカバーの周囲を通り抜けていくため、ムーブメントの部品に浸透して磁化させることはない。1953年には、このプロトタイプをもとに耐磁性を強化した新しいパイロット用モデルを開発して、さらに厳しくなった国防省の要件に対応。さらに、耐磁性を備えた民間用腕時計のプロトタイプシリーズも開発した。ダイアルに「レイルマスター」の名を入れた同シリーズはカナダ国有鉄道に貸与され、耐磁性を強化する 1年がかりの共同研究プロジェクトで使用された。この共同プロジェクトで得た教訓を活かして、仕事で耐磁時計を必要とするプロフェッショナル向けのタイムピース、レイルマスターモデルの生産を 1957年に開始した。この時計に採用されたテクノロジーよって 1,000ガウス前後の磁気にも耐えられるようになり、準的な腕時計の約 15倍に相当する耐磁性を実現した。これはタイムピースの歴史を塗り替える画期的な出来事であり、レイルマスターは当時発売されたばかりのスピードマスター・クロノグラフやシーマスター 300に並ぶほど重要だった。20世紀の残り数十も、オメガはヒゲゼンマイやウォッケース内部のファデーケージにエリンバー合金やインバー合金を使用することで耐磁性に優れた時計を製造してきた。しかし、20世紀終盤になると、エンドユーザーが利用する電子機器が爆発的に増加し、磁石を使用する日用品が増えたことなどから、腕時計を取り囲む磁気源の数や強度が急増。そこで、保護技術の限界を憂慮したオメガのエンジニアは、時計メーカー各社が 100年以上前に着手した課題に立ち返り、新たなヒゲゼンマイの開発に焦点を絞った。

ファデーケー

1836年にイギリスの科学者マイケル・ファデーが発明したファデーケーは、導電体を利用して磁場を遮り、磁気をケージの外側に分散させることで内部の精密機器を保護る。

つまり、導電体を通じて磁場の影響を分散させ、ケージ内部の磁場をゼロにするつくりになっている。この仕組みは人体を落雷や静電気放電から守るためにも利用されており、一般的には電子精密機器を電波の悪影響から保護することで知られている。ファデーケージは静磁場やゆっくり変動する磁場(地球の磁場など)を遮断することはできないが、十分に厚みのある導電体で包み、メッシュの隙間が電磁波の波長より著しく小さければ、内部をしっかりとシールドすることができる。

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ヒゲゼンマイ

コイルをきつく巻いたヒゲゼンマイは計時性を司っている。これは置時計の振り子に相当する腕時計の小型パーで、長さや張力を指定して正確に製造されてる。

ヒゲゼンマイはコイルの巻き上げや巻き戻しによって所定の共振周波数で振動し、歯車の回転速度をコントロールする。この周波数が安定しているほど、タイムピースの精度が高い。磁気を帯びるとヒゲゼンマイのコイルが相互に引き寄せられて、完全に巻き戻らなくなる。そうなると、ゼンマイの有効長が短くなり、時計が進んでしまう。2008年、オメガは Si14シリコン製ヒゲゼンマイを搭載した初のコーアクシャムーブメントを発表した。ティール製のヒゲゼンマイは、製造中の品質の変化や寿命が限られているなど、さまざまな問題が生じるが、この精密部品をSi14シリコンで製造すれば、いつでも正確な形状が再現され、性能をいつまでも維持することができる。この最先端素材は高精度なCAMプロセスによって、シリコンディスクから完璧な形状のヒゲゼンマイへとワンステップで成形される。その結果、人毛の 3分の 1ほどの細さしかないのに、強い衝撃に耐え、磁場の影響をまったく受けない部品が完成た。

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究極のテスト

20世紀末から 21世紀にかけて、素材技術は大きな進歩を遂げ、オメガは 2008年にSi14シリコン製ヒゲゼンマイをコーアクシャムーブメントに搭載して、磁気の問題を一気に軽減した。このイノベーションによって、まったく新しいコーアクシャル・キャバー 8508の誕生への道が開かれたのだ。このキャバーは、他のムーブメント部品にもチタンやニッケルリンなどの厳選した非鉄素材を使用することで、磁気の問題を根絶た。

こうして部品を改良したことで、 15,000ガウスの磁場にさらされてもタイムピースの計時性能が損なわれる心配はなくなった。おまけに、ファデーケージでシールドする必要がなくなったので、ケーバックにムーブメントが見える窓を設けることも可能になった。この新しいキャバーを搭載したシーマスターアクアテラ 15,000ガウスは 2013年に発売され、業界の常識を覆した。弱い磁気のみならず、最強の磁場にも耐えられる初めてのタイムピースは実に画期的だったのである。 2014年からは、オメガマスターコーアクシャキャバー搭載モデルとして、この新しい耐磁技術を新製品に展開し始めた。いまや、このシリーズにはメンズ&レディス時計用の大型・小型ムーブメントを取り揃えており、 2016年にはキャバー 8800とキャバー 8900、そしてクロノグラフキャバー 9900が仲間入りした。1925年に発売されたクロノグラフ、第二次世界大戦でパイロットが愛用したモデル、そしてレイルマスターはどれも当時の基準では「耐性」を備えていたと言ってよいが、2013年にオメガがどんな磁気にも耐えられる初のタイムピースを発売すると、「耐性」という言葉の従来の定義はことごとく時代遅れになってしまった。折しも、オメガは顧客の判断基準は時計メーカーの自己申告のみに頼るべきではない、と懸念を抱き、第三者が性能を実証したという安心感を買い手が求めていると感じるようになっていた。スイスの時計業界では昔から、第三者による自社製品のテストを実施しているが、求められていたのはもっと広範な試験だ。そこでオメガはスイスの公的認定機関であるスイス連邦計量・認定局(METAS)に時計メーカーの自己申告を検証する一連のテストを開発するよう求めた。 METASは信頼できる機関として新たな基準を設けることのできる絶好の立場にある上、独立した組織なので、どのメーカーもテストを受ければ新たな認定を得ることができる。い。METASは1つのタイムピースを丸 10日かけてテストし、耐磁性に関する 3つの試験をはじめ、 8つの項目を検証する。まずはムーブメントについて、 COSC試験(クロノメーター認定取得のための独立した試験)の後に 2つのテストを行い、ムーブメントを時計に搭載した状態で再度テストする。このテストでは、 10点のムーブメント(そして後で時計に搭載された状態で)を 300個の永久磁石でつくられた、 15,000ガウスの磁場が発生するトンネルの中に入れる。各テストは 2回ずつ姿勢を変更して実施。テスト中はマイクで振動音をキャッチして30秒ごとに比較し、計時性能に変化がないかどうかをチェックする。第 3の耐磁性試験では、時計全体の磁気を抜いた上で再度テストし、日差が変わらないかどうかを確認。そうすれば、 METASの試験で磁気を帯びた時と磁気を抜いた後に違いがないかどうかがわかる。これらの試験をはじめ、防水性能やパワーザーブなどのテストに合格した時計は、晴れて「マタークロノメーター」の称号を獲得できる。術、確かなイノベーション、そしてたゆまぬ努力によって、オメガの時計技術者はついに磁気の影響という数世紀にわたる問題にけりをつけた。耐磁性に優れた新たなキャバーの開発によって、もはや磁石に悩まされないタイムピースの新時代が幕を開けた。第三者によるお墨付きを得たことで、オーナーは現代の環境下でも時計の精度や信頼性に安心が持てる。日常生活で目に見える危険、そして見えない危険に遭遇しても、自慢のマスター クロノメーターは期待通りの性能を発揮してくれるに違いない。

「耐磁性に優れた新たなキャバーの開発によって、もはや磁石に悩まされないタイムピースの新時代が幕を開けた」

オメガ ウ⁠ォ⁠ッチメイキング

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